三徳山三佛寺(みとくさん さんぶつじ)は、鳥取県三朝町の標高約900メートルの三徳山に開かれた天台宗の古刹である。山全体が修験道の霊場となっており、険しい岩場や断崖に建つ堂宇群で知られる。
寺伝によれば706年に役行者が修験道の行場として開山し、その後849年に慈覚大師円仁が阿弥陀如来・釈迦如来・大日如来の三仏を安置したことから「三佛寺」と呼ばれるようになったという。
最大の見どころは奥院の投入堂(なげいれどう)である。垂直に切り立つ岩窟に建つその姿は日本でも類例がなく、「誰がどのように建てたのか分からない建築」として有名だ。伝説では役行者が法力で堂を岩窟へ投げ入れたとされ、このことから投入堂と呼ばれるようになった。
しかし三佛寺の魅力は投入堂だけではない。文殊堂、地蔵堂、鐘楼堂などの諸堂が険しい山中に点在し、参拝者は修験者と同じように山道を歩きながら巡拝する。鎖場や急斜面が続く参道は、観光地の遊歩道ではなく修行の道そのものである。投入堂へ向かう参拝が「登山」と呼ばれるのはそのためだ。
険しい山を登り、息を切らしながら辿り着いた先で見上げる投入堂は、単なる国宝建築以上の存在に感じられる。三佛寺は建物を見る寺ではなく、山そのものに身を置き、修験道の世界を体験する寺なのである。
文化財






巡礼の記録
2026年8月2日
投入堂は荒天時には入山できない。
そのため参拝計画は週間天気予報を確認し、大きな天候の崩れがないことを確認してから立てた。
また、一人では入山できないことも事前に知っていた。とはいえ、とりあえず現地へ行けば何とかなるだろうと思い、前日は倉吉シティホテルに宿泊した。


翌朝、7時48分発のバスに乗り、8時15分に投入堂入口へ到着した。受付で400円を支払う。
そこで、「一人で来た人同士が声を掛け合って一緒に入山することはありますよ」
と聞き安心した。しかし続けて、
「後から苦情の電話を受けることが結構あるんです。みなさん目的もペースも違いますからね。下山した頃には喧嘩していることもあります。カップルや家族連れには声を掛けない方がいいです。同性同士の方が無難ですね」
と言われた。
なるほどと思い、ベンチで待つ。5分ほどすると男性3人組が現れた。
一人は中年男性。もう一人は小学校高学年から中学生くらいで、おそらく親子。
残る一人は登山服姿の年配男性だった。
親子がどこか恨めしそうに私の方を見ている気がした。
もしやと思い後を追う。
話を聞くと予想通りで、登山服の男性は駐車場で親子に声を掛けて同行することになった人だった。
というわけで、私はその登山服の男性と二人で入山することになった。
本堂裏の登山事務所で800円を納める。
代表者が氏名と住所を記入し、「六根清浄」と書かれたタスキを受け取る。
ここでは靴のチェックもある。幸い私の靴は問題なかった。ただし登山靴であっても靴底が摩耗しているとわら草鞋の購入を求められることがあるので注意が必要だ。
同行者は登山慣れしており、先頭を歩いてくれた。これは本当に助かった。
実際に登ってみると、登山というより崖登りである。多くの修験者が歩いた跡が道になったような道。
高村光太郎の『道程』を思わせる。手すりはない。
木の根を掴み、岩をよじ登り、鎖を握りながら進む。
まず重要文化財の文殊堂が現れる。
舞台を歩くこともできるが、柵がなく恐ろしい。人生で初めて膝が震えた。
私はAble Carryのリュックを背負っていた。街歩きでは高重心で重さを感じにくい優れた設計だが、文殊堂の舞台では逆効果だった。重心が高くなり、不安定さが増してしまう。
続く地蔵堂では反省を生かし、リュックを置いて舞台を歩いた。
鐘撞堂では鐘をつく。周囲に遮るものがなく、音が山々へ響き渡る。
観音堂は崖の窪みにすっぽり収まるように建っている。岩壁との隙間を進む感覚が面白い。
そして道なりに進んでいると、突然右斜め上に国宝投入堂が現れた。この瞬間の達成感は格別だった。帰り道は不思議と足取りが軽かった。
8時40分に入山し、下山したのは9時55分。所要時間は約1時間15分だった。
私が投入堂を知ったきっかけは、『もののけ姫』の寺院建築のモデルになったという話だった。
そして五木寛之『百寺巡礼』で、その参拝が想像以上に大変であることを知った。
今回ようやく念願がかなって参拝できた。
苦労して到達したからこそ価値がある。そう思わせてくれる場所だった。
見知らぬ人に声を掛けるのが苦手な人は、無理をせずツアーを利用した方がよいだろう。
投入堂は、参拝が目的地ではない。
そこへ至る道そのものが修行であり、巡礼の一部なのだと思う。



基本情報
| 名称 | 三徳山 三佛寺(みとくさん さんぶつじ) |
|---|---|
| 所在地 | 鳥取県東伯郡三朝町三徳1010 |
| 宗派 | 天台宗 |
| 本尊 | 釈迦如来・阿弥陀如来・大日如来 |
| 電話番号 | 0858-43-2666 |
| 公式HP | https://mitokusan.jp/ |
| アクセス |
JR倉吉駅から路線バスで約40分 中国自動車道 院庄ICから車で約50分 |
| 投入堂参拝登山 |
受付時間:8:00~15:00 入山には服装・靴の確認あり 原則として単独入山不可 荒天時・積雪時は入山禁止 |
